2023年4月27日 配信
突然ですが皆さま、定食屋なのに妙にデザートが充実していたり、イタリアンレストランなのになぜか茶碗蒸しがあったり、というようなちょっと変わったメニューを見かけたことはありませんか?
私は過去にそんなようなお店に入った記憶があります。具体的にはもう思い出せないのですが……。
なんでこんなものがあるの?と不思議に思ってしまうメニューは現実には存在しますが、小説の中で──それも出だしの部分でそういうメニューを登場させるのは危険かもしれません。読者はそこに意識をとられ、話が頭に入ってこなくなってしまう恐れがありますから。
たとえば短編小説「味覚ノスタルジア」の冒頭シーン。
主人公の「田辺」はカフェのオープンテラスで独りで食事をしています。カフェといったらやっぱりサンドイッチやパスタが定番。なのに彼が食べているのはなぜか汁そばセットです。
通りから見える所で食べている必要があったのでカフェのオープンテラス、若者がいかにも夢中で食べそうな物として汁そばにしたのですが、編集の方から、カフェに汁そばがあることに引っかかったと言われてハッとしてしまいました。そのとき初めて私はメニューのちぐはぐさに気付いたのでした。
そもそも汁そばってなんだ?とハタと考えてしまいました。
すぐに浮かんできたのは、ミスタードーナツで出される汁そばです。
汁そばとはつまりラーメン。カフェには普通、ラーメンはありません。
さて、この冒頭部分をどうしたものか?とちょっとした議論が始まりました。
私の中ではもう、カフェ的なオープンテラスで汁そばを夢中で食べている青年という図が確立しています。たとえば譲歩して、汁そばをナポリタンに変えたらアウトなのです。ましてやサンドイッチなど論外です。
無我夢中で食べる物といったら、やはり盛大にすすれるラーメンでなくては!
そのあと田辺は汁まで飲むのですから!
すると、曜日限定で汁そばセットを出すカフェにしたらどうだろうか……と編集の方が提案をしてくださいました。
なんて画期的で素晴らしいアイディア!
確かに曜日限定にすれば、あくまで汁そばは例外的に出される特殊なメニューという位置付けになり、まあそういうカフェってことなのね、となんとか受け入れてもらえそうです。私はホッと胸をなでおろしました。
それにしても、編集の方に指摘されるまで、メニューのちぐはぐさにまったく疑問を抱きませんでした。編集者さんは第三の眼。私のこだわりを汲み取って頂き嬉しい瞬間でした。
ミスドを除いて、汁そばセットを出すカフェなんて、いまだかつて見かけたことさえないのに……。
一体このシチュエーションはどこから来たんだ!?と我ながら不思議に思ったひとこまでした。
ちなみに写真は、編集の打ち合わせで使った資料の一部です。
まだまだ道のりは長い。
1 件
カフェで汁そばという発想はさすがひめるさんらしい。どんな作品なのか、またもや不思議です!