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2025年4月18日 配信
中学2年の一星(いっせい)は、最近学校で妙な話を耳にする。 「7月5日に日本が沈むらしいよ」「でっかい津波が来るって」「未来人が言ってたとか、予知夢が当たってるとか」 クラスメイトたちは面白がって話していたが、一星の胸には妙なざわつきが残った。 というのも── 父親が、かつて“ノストラダムスの大予言”に本気で怯えていたからだ。1999年7月、世界が終わると信じて、大学受験の勉強を放棄したという。「意味ないだろ?世界が終わるのに。だったら遊んでた方が得だ」と。 その父が今、一星にこう言うのだ。「7月5日、気をつけろよ。何か…来るかもしれない」 冗談っぽく笑う父の目は、どこか本気だった。 続く
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2025年5月18日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 教室の空気が、日増しに重たくなっていく。 防災訓練の翌週、ホームルームでの議題は一つ。 「7月5日に向けて、クラスとしてどう向き合うか」 ──誰もが避けたいはずだったその話題を、担任の矢口先生があえて取り上げた。 「最近、“7.5の日”について、ネットやSNSでいろいろな話が出ています。学校としてはすでに否定の見解を出しましたが、それでも不安な人もいるはずです。だからこそ、今日は皆で話しましょう。逃げずに、ちゃんと考えてみてください」 しばしの沈黙の後、手が上がった。 「……僕、避難するつもりです」 名乗り出たのは、理系で物静かな加瀬くんだった […]
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2025年5月17日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 昼休み、教室の空気はいつもと違っていた。 「ねえ……これ見た?」ミナがスマホをこっそり見せてきた画面には、SNSの投稿が表示されていた。 『知り合いの父が自衛隊で働いてて、機密情報だけど、7月5日、東京湾に“異常な動き”があるって言ってたらしい』 「またデマじゃないの……」一星が眉をひそめると、タクトがすぐに言い返した。 「でも、前もこういうの当たったことあったじゃん?えーと、何地震のときだっけ……」「でもでも見て、同じ投稿、もう5000リツイートされてる」 そこには、まるで本物のニュース風に編集された画像も添えられていた。・人工地震の可能性・ […]
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2025年5月11日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら その夜、一星はリビングで無言のままスマホを見つめていた。 SNSにはまだ「7月5日Tシャツ」の自撮りや「終末弁当チャレンジ」動画が溢れている。 「またその話?」キッチンから母・佳代が笑うように言った。エプロン姿のまま、手には缶詰とLEDライトを持っている。 「ちょうどいいから、アンタもこっち来なさい。避難袋の中身、もう一回チェックするわよ」 リビングの隅に置かれた大きなリュック。 開けると、中には非常食、水、簡易トイレ、モバイルバッテリー、スリッパ、乾電池……すべて整然と並べられている。 「これ、毎年3月と9月に見直してるけど、今年は念のためも […]
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2025年5月11日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 放課後の教室。窓から差し込む陽射しが、少しずつ傾いてきていた。 黒板には「避難訓練ごくろうさま!」の文字。けれど、教室の話題は別の方向で盛り上がっていた。 「見て見て!『7.5』ってロゴ入りTシャツ、届いた~!」 クラスの男子・リョウがふざけたように制服の下から白いTシャツをめくって見せた。胸には黒字で大きくこう書かれている。 “The End Is Coming – 2025.07.05”そして背中には“世界最後の登校日”というふざけた文字。 「それ、マジで作ったの?」「ヤバすぎ!」周囲が爆笑する中、何人かの女子も「私もネットで注文した~」と […]
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2025年5月11日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 家に帰ると、キッチンからカレーの匂いが漂ってきた。 妹のひよりがテレビを見ながら「お兄ちゃ~ん!」と駆け寄ってくる。その後ろでは、母の佳代が「手洗ってから!」と声をかけていた。 「ただいま」一星は笑って返し、ランドセルを置くと、リビングへ向かった。 夜。食事が終わり、ひよりが眠りについた頃、父の真人が缶チューハイ片手にベランダに出ていた。夜風がまだ少し冷たく、一星は上着を羽織って後を追った。 「父さん、またUFOでも探してんの?」 「お、星野探偵団、参上か」真人は笑いながら星空を見上げていた。 「今日は冗談抜きで聞きたいことがあるんだけど」 一 […]
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2025年5月11日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 夕方の教室は静まり返っていた。帰りの会でざわめいていた空気は消え、窓の外からは遠くの波音と、湾岸を走るトラックの音だけがかすかに聞こえる。星野一星は、机の下に落ちていたプリントを拾い上げて、ふうっとため息をついた。 「残ってたのか、星野」 声の主は、小山先生だった。資料を手にしたまま、教室の入り口に立っていた。 「はい。プリント落としちゃって、すぐ帰ります」 「焦らなくていいよ。俺も資料室に行くついでに寄っただけだしな」小山先生はそう言って、窓際へ歩いてきた。カーテンを軽く押しのけて、空を見上げる。 「……夕焼け、きれいだな。あのビルの向こう、 […]
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2025年5月10日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 放課後の豊洲。 夕方の光がビル群に反射し、街全体が金色に包まれていた。一星、翼、快斗、未来は、ららぽーと裏手の豊洲ぐるり公園にある防災スペースのベンチに腰を下ろしていた。 「ここのスピーカー、災害時に自動で警報鳴るらしいよ」翼が上を指差した。街灯に設置された灰色のスピーカー。いつもは気にも留めないそれが、今日はやけに重たく見えた。 「避難所って、ここになるんだよね。海が目の前って、正直安心できないよ」未来が波打ち際を見つめながら言った。 「うちの親さ、昨日から防災グッズの話ばっかり」 快斗が笑う。「モバイルバッテリー4つ買ったって自慢してきてさ […]
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2025年5月5日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら *午後。W湾中学校の体育館(第4話) 普段はバスケのドリブル音や歓声で満ちている場所が、今日はやけに静かだった。 1年3組の生徒たちは体育座りで並び、前方に立つ教師の説明を聞いていた。担任の小山先生が、防災担当の渡辺先生にマイクを手渡す。 「…本日の地域防災訓練は、江東区の要請によって実施されるものです。地震発生後、津波警報が出た場合は…」プロジェクターに映し出されたのは、学校から豊洲公園方面への避難経路。避難目標時間、集団行動のルール、そして、「自宅への連絡は控えること」。 渡辺先生の声が、いつもよりゆっくりだった。噂を意識しているのかもしれ […]
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2025年5月5日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら *2025年4月22日(第3話) 朝の通学路、ららぽーと豊洲の船着場付近。東京湾から吹き抜ける潮風が、制服の裾を揺らしていた。 一星は、親友の高橋 翼と一緒に歩いていた。二人のスマートフォンには、SNSで話題になっている投稿が表示されていた。 「一星、これ見た?」翼がスマホの画面を見せる。 画面には、2025年7月5日に関東地方で大地震が発生するという予言が書かれた投稿が表示されていた。 「2025年7月5日、関東地方に大地震が発生する。東京湾岸地域は特に注意が必要だ」といった内容だ。 「また、こんな噂が出てるのか……」一星はため息をついた […]
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2025年4月21日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら *4月21日(第2話) 朝の通学路。風はまだ冷たく、海から吹き上げてくる潮の匂いが鼻につく。 一星は、東京湾に面した中学校へ向かっていた。 通称“W湾中(わんちゅう)”正式名称は「江東区立湾岸第二中学校」。 タワマンと倉庫が入り混じるこの地域では、地震が起きたら津波の被害が真っ先に心配される。 教室に入ると、ざわついた空気が流れていた。 「お前、また見たんだろ?あの動画」「マジで7月5日、来るって…でっかい津波」「タツキって人が言ってんだよ。前の地震も当てたってさ」 一星は席につく前に、ちらっと声の方を見た。そこにいたのは、親友の高橋 翼と、ス […]
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