2025年5月17日 配信
「ねえ……これ見た?」
ミナがスマホをこっそり見せてきた画面には、SNSの投稿が表示されていた。
『知り合いの父が自衛隊で働いてて、機密情報だけど、
7月5日、東京湾に“異常な動き”があるって言ってたらしい』
「またデマじゃないの……」
一星が眉をひそめると、タクトがすぐに言い返した。
「でも、前もこういうの当たったことあったじゃん?えーと、何地震のときだっけ……」
「でもでも見て、同じ投稿、もう5000リツイートされてる」
そこには、まるで本物のニュース風に編集された画像も添えられていた。
・人工地震の可能性
・湾岸の液状化マップ
・都心からの“自主避難”のすすめ
「これ、ほんとならやばくない?っていうか……どうする?」
教室の片隅では、女子たちが真剣な顔で話し合っていた。
「うちのお母さん、明日から避難するって……」
「もうペットだけ先に地方の親戚のとこに送った子もいるらしいよ」
空気が、完全に“冗談”の域を超えていた。
──そして、ついに事件が起こる。
放課後、ある男子生徒が教師の前に駆け込んだ。
校内がざわつき始める。
「どうやら“7月5日”を本気で信じてる生徒がグループになって、
豊洲の港にある“自主避難スポット”ってのを探しに行ったらしい」
「全生徒に告ぐ。現在SNS等で広まっている“7月5日東京湾津波説”は、根拠のないデマです。学校としても調査済みであり、そのような情報は一切確認されておりません。過度な不安や無断での行動は控えるように」
だが、その「否定」こそが火に油を注ぐ結果となった。
「やば、“公式否定”きた!ってことは逆にマジじゃん!」
「隠蔽きたー!やっぱ7.5くるぞコレ!」
クラスLINEでは、荒れたスタンプと転送された“噂の真相動画”が飛び交い、
**「どうやって逃げるか」**の話題が現実味を帯びていった。
一星は、ひとり、スマホの画面を握りしめていた。
──どうして、こんなにも簡単に人は“噂”に飲み込まれていくのか。
──そしてこの波は、どこまで広がっていくのか。
その夜。
一星の通知欄には、“ある投稿”が流れてきた。
《7.5津波説の元ネタまとめ》というスレッド。
最初に投稿したアカウントは、どうやら……“中学生じゃない”。
その名前に、一星の心臓がドクンと跳ねた。──都市伝説、SNS、そして“ある組織”の存在。
物語の背後に潜む影が、少しずつその輪郭を現し始めていた。
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