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2025年5月18日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 教室の空気が、日増しに重たくなっていく。 防災訓練の翌週、ホームルームでの議題は一つ。 「7月5日に向けて、クラスとしてどう向き合うか」 ──誰もが避けたいはずだったその話題を、担任の矢口先生があえて取り上げた。 「最近、“7.5の日”について、ネットやSNSでいろいろな話が出ています。学校としてはすでに否定の見解を出しましたが、それでも不安な人もいるはずです。だからこそ、今日は皆で話しましょう。逃げずに、ちゃんと考えてみてください」 しばしの沈黙の後、手が上がった。 「……僕、避難するつもりです」 名乗り出たのは、理系で物静かな加瀬くんだった […]
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2025年5月17日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 昼休み、教室の空気はいつもと違っていた。 「ねえ……これ見た?」ミナがスマホをこっそり見せてきた画面には、SNSの投稿が表示されていた。 『知り合いの父が自衛隊で働いてて、機密情報だけど、7月5日、東京湾に“異常な動き”があるって言ってたらしい』 「またデマじゃないの……」一星が眉をひそめると、タクトがすぐに言い返した。 「でも、前もこういうの当たったことあったじゃん?えーと、何地震のときだっけ……」「でもでも見て、同じ投稿、もう5000リツイートされてる」 そこには、まるで本物のニュース風に編集された画像も添えられていた。・人工地震の可能性・ […]
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2025年5月11日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら その夜、一星はリビングで無言のままスマホを見つめていた。 SNSにはまだ「7月5日Tシャツ」の自撮りや「終末弁当チャレンジ」動画が溢れている。 「またその話?」キッチンから母・佳代が笑うように言った。エプロン姿のまま、手には缶詰とLEDライトを持っている。 「ちょうどいいから、アンタもこっち来なさい。避難袋の中身、もう一回チェックするわよ」 リビングの隅に置かれた大きなリュック。 開けると、中には非常食、水、簡易トイレ、モバイルバッテリー、スリッパ、乾電池……すべて整然と並べられている。 「これ、毎年3月と9月に見直してるけど、今年は念のためも […]
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2025年5月11日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 放課後の教室。窓から差し込む陽射しが、少しずつ傾いてきていた。 黒板には「避難訓練ごくろうさま!」の文字。けれど、教室の話題は別の方向で盛り上がっていた。 「見て見て!『7.5』ってロゴ入りTシャツ、届いた~!」 クラスの男子・リョウがふざけたように制服の下から白いTシャツをめくって見せた。胸には黒字で大きくこう書かれている。 “The End Is Coming – 2025.07.05”そして背中には“世界最後の登校日”というふざけた文字。 「それ、マジで作ったの?」「ヤバすぎ!」周囲が爆笑する中、何人かの女子も「私もネットで注文した~」と […]
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2025年5月11日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 家に帰ると、キッチンからカレーの匂いが漂ってきた。 妹のひよりがテレビを見ながら「お兄ちゃ~ん!」と駆け寄ってくる。その後ろでは、母の佳代が「手洗ってから!」と声をかけていた。 「ただいま」一星は笑って返し、ランドセルを置くと、リビングへ向かった。 夜。食事が終わり、ひよりが眠りについた頃、父の真人が缶チューハイ片手にベランダに出ていた。夜風がまだ少し冷たく、一星は上着を羽織って後を追った。 「父さん、またUFOでも探してんの?」 「お、星野探偵団、参上か」真人は笑いながら星空を見上げていた。 「今日は冗談抜きで聞きたいことがあるんだけど」 一 […]
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2025年5月11日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 夕方の教室は静まり返っていた。帰りの会でざわめいていた空気は消え、窓の外からは遠くの波音と、湾岸を走るトラックの音だけがかすかに聞こえる。星野一星は、机の下に落ちていたプリントを拾い上げて、ふうっとため息をついた。 「残ってたのか、星野」 声の主は、小山先生だった。資料を手にしたまま、教室の入り口に立っていた。 「はい。プリント落としちゃって、すぐ帰ります」 「焦らなくていいよ。俺も資料室に行くついでに寄っただけだしな」小山先生はそう言って、窓際へ歩いてきた。カーテンを軽く押しのけて、空を見上げる。 「……夕焼け、きれいだな。あのビルの向こう、 […]
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2025年5月10日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら 放課後の豊洲。 夕方の光がビル群に反射し、街全体が金色に包まれていた。一星、翼、快斗、未来は、ららぽーと裏手の豊洲ぐるり公園にある防災スペースのベンチに腰を下ろしていた。 「ここのスピーカー、災害時に自動で警報鳴るらしいよ」翼が上を指差した。街灯に設置された灰色のスピーカー。いつもは気にも留めないそれが、今日はやけに重たく見えた。 「避難所って、ここになるんだよね。海が目の前って、正直安心できないよ」未来が波打ち際を見つめながら言った。 「うちの親さ、昨日から防災グッズの話ばっかり」 快斗が笑う。「モバイルバッテリー4つ買ったって自慢してきてさ […]
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2025年5月5日 配信
「運命の7月5日」*プロローグ(第1話)はこちら *午後。W湾中学校の体育館(第4話) 普段はバスケのドリブル音や歓声で満ちている場所が、今日はやけに静かだった。 1年3組の生徒たちは体育座りで並び、前方に立つ教師の説明を聞いていた。担任の小山先生が、防災担当の渡辺先生にマイクを手渡す。 「…本日の地域防災訓練は、江東区の要請によって実施されるものです。地震発生後、津波警報が出た場合は…」プロジェクターに映し出されたのは、学校から豊洲公園方面への避難経路。避難目標時間、集団行動のルール、そして、「自宅への連絡は控えること」。 渡辺先生の声が、いつもよりゆっくりだった。噂を意識しているのかもしれ […]
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