2021年12月20日 配信
心の運動療法家、岡本浩之です。
大々的に報じられているのでご存知の方も多いとは思いますが、大阪のメンタルクリニックにて放火により多くの方が被害に遭われました。
まだ情報が少ない現時点で詳しく触れるべきことではないのかもしれませんが、精神科医として意見を求められることが多いので触れておきたいと思います。
患者さんの思いの良い先生を慕う声が多く報道され、またそこに通院歴のある患者さんが事件の被疑者として実名や顔写真と共に報道されています。
この報道を見て多くの方が、「精神疾患を持つ人は、こんな自爆テロのようなことまでする凶悪な人間なのか」というイメージを持つのではないでしょうか。
自傷他害のおそれがある方を対象にした措置入院の制度があったり、より重い犯罪を犯した方を対象にした医療観察法という制度があるように、精神疾患の方で犯罪を犯す方はおられます。
ただ、犯罪白書にて「精神疾患の方の犯罪検挙数が0.6%、精神疾患の方の割合が全人口の約2%」といわれていることからも、 精神疾患の方が犯罪を犯す確率の方が精神疾患でない方が犯罪を犯す確率より明らかに高いというデータはありません。
「精神疾患の患者は怖い、社会から隔離をしろ!」という極端な流れが生まれないように、私たち精神科医が精神疾患について冷静な目で発信をし続けたいと思います。
「精神疾患だと言えば、犯罪を犯しても責任能力がないとされて無罪放免だ。」と批判的に言われることが多く、今回の事件でも「精神疾患だということは抜きにして、犯罪の大きさだけで裁かれるべきだ。」という意見を耳にします。
実際には、精神疾患だからといって何の責任も負わなくてよい、という都合の良い話はないのですが、「罪を軽減するために精神疾患だと主張している」としか思えない主張が取り上げられることも多く、誤解を生みやすいと感じます。
私は犯罪を犯した精神疾患患者の簡易鑑定までしか経験がなく、本格的な精神鑑定をしたことがないので偉そうに言える立場ではないのですが・・・・精神鑑定結果は精神科医によって分かれます。
かなり前ですが、ある事件を起こした方についての鑑定結果を聞いて、「なんでこの診断で心神喪失になるの?責任能力あるでしょ?」と思ったことがあります。報道からしか情報を知りえない私と、精神鑑定をなさった先生のどっちの判断がより深いものかは言うまでもないのですが。
同一人物の鑑定結果を巡って、精神鑑定をした精神科医同士が激しく議論、批判しあうことは度々あります。
自分がもし被害者やその遺族という立場だと仮定してしまったら、処罰したいという感情が先走って冷静な判断は出来ないでしょうが、鑑定医はそんな私情は当然挟まず、精神疾患の状態のみを判断します。
今回の事件を起こした方は現在も重症とのことですが、回復して裁判になった場合には精神鑑定が当然行われます。
処罰されるべきという多くの方の思いに見合った鑑定結果ではなかった場合に、「精神科医は患者の肩ばかり持つのか?被害者や遺族の気持ちを考えないのか?」と思われるかもしれませんが、どちらかに肩入れするのではなく市場を排して精神症状のみを評価した結果ということは(納得するかは別として)知って頂けると嬉しく思います。
私は精神科医であり、うつ病患者でもあるので、自然と「精神疾患患者寄り」になることが多いです。それは悪いことではないのですが 、精神疾患ではない方々が今回の事件で多くの不安や恐怖、怒りを抱いています。
精神疾患ではない方々のそのような思いを無視して、「精神疾患について理解しろ!」と一方的に押し付けるのは強引すぎると思います。押し付けているつもりがなくても、私が普段通りに発信すればそのように感じる方がより多くなるでしょう。それは相互理解が進むどころか、余計に分断を招きます。
双方の意見を聞きながら、互いの不安や恐怖、怒りを和らげられる存在であるように努めます。
最後に、話が脱線するのですが・・・・今回の事件を起こした方は実名と共に「容疑者」と報道されています。「何も違和感ないじゃん?」と思うかもしれませんが、この方は現在重症で治療を受けており、逮捕されておりません。
数年前に池袋で自動車運転により事故を起こした飯塚氏についての当初の報道を思い出してください・・・「元院長」と報道されていましたよね?その時になぜ「容疑者」と呼ばないのか報道関係の方が解説した記事を読んだことがあります。それは、「ケガをして入院をしており、逮捕前だから」というものでした。
それに従えば、今(令和3年12月20日)の時点で「容疑者」はおかしくなりません?
私は、事件があった時に逮捕前でも「容疑者」と呼称されることには違和感がありませんが・・・事件を起こした人の立場を見て対応を変えているの?とふと気になりました。
2 件
秀駒です。
ウサコちゃんとのりこちゃんのお話しの著者です。このコロナ禍で人間は道半ば精神的に生きる力を失い会社から病気の相談をする時代。一生懸命に生きて間違いない世の中で少しでも正しい生き方を修正してくれる人間との関わりが少しの心の開花と思いますね。色んな事情はクリアですね
秀駒様
コメントを頂き有難うございます。
コロナカ禍で人とのつながり方が大きく変わってしまいましたが、おっしゃるような人との関わりを大事にしていきたいですね。