2022年9月23日 配信
遂に家賃滞納……そろそろ家主の我慢も臨界に達するはず。まもなく部屋のドアを叩きにやってくるだろう。
仕事もなく金もなくなった……今の俺に残されたものは――わずかな古着と壊れかけのノートPC。
最後の切り札としてこのPCを売るつもりだが……わずかな金になるかわりに、数週間分の食費で消えてしまう。
小説……それを書くことを日課としていたが、もうそれさえもできなくなる。
本当にこれで、俺は抜け殻になる。明日からどうやって生きていこうか……鏡を見なくても目が虚ろなのは分かっていた。
自殺……それも幾度となく考えた。
希望もない、未来もない……それならいっそ――しかし、俺には自殺をする勇気がなかった。そこで……まったく馬鹿げた想像だが、人間をやめたくなった。
そう……何かに変化して新しい自分になりたかった。このまま、人間として生き続けても先は見えていた。
円安、税金、家賃、ブラック企業、過労、食品添加物に異常気象……。
人間でいるからこそ辛い目に合う、社会が辛辣だと感じる。
俺は念じた……何かに変化することを本気で!
両拳を握りしめ、狭い部屋の中央で額を床に押し付けるように這いつくばった。動物、昆虫……いや、もっと何か力強く、度肝を抜く生物に変化したい!どうせだったら、人々が戦慄を覚え逃げ惑うほどの邪悪な容姿のほうがいい……脳裏にこびりつくほどの醜悪な容姿!
手足は何本?双頭でもいい……とことん不気味な容姿で震え上がらせ、人々をどん底に叩き落としてやりたい……。
俺はあることに気づいた。そう、すでに俺の意志は以前とはまったく違う邪悪なものなっていたのだ。虫一匹、叩き潰せない俺が……すでに変化は始まっている⁉最後の神頼みが成就した……まさか、そんな……。
背中に異変を感じた――俺の中から何かが蠢いて這い出すつもりか⁉
だめだ――――――――――‼
こんなストーリー‼誰が読むかあ‼
俺はノートPCを持ち上げると叩きつけてやった。
たった今、現実逃避をして頭の中でストーリーを練っていたがあまりの出来の悪さに嫌気がさし、途中で創作をやめた。
ああ‼だめだ‼だめだ‼怪物ものなんてはやらないし、こんな陳腐なストーリー誰も読まんだろ⁉
落ち着きを取り戻し、息を整え正座した。
人間を軸に光と闇を描くんじゃなかったのか……余計な邪念は捨て、創作に徹するんだ。
まずは主人公の職業から……IT企業の社員なんてのはどうだ?今まで書いたことのないタイプだ。
ある日、文字を入力すれば現実化してしまう悪魔のようなノートPCを拾って……お、いいじゃないか!これでいこう……
(終わり)
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