2022年10月1日 配信
家にじっとしていることができない。二日も家にこもっていると気が狂いそうになる。金銭的に余裕がなくてもとりあえず、外に出る。これは必須だ。
ホラー作家とは……家にこもってずっとPCの画面にむかっているイメージがあるかもしれないが、それは僕には当てはまらない。三時間も書き続けていることなど滅多にない。あったとしても、どこかしらで何かに気をとられて、作業は遮られてしまうだろう。
暗い部屋で書き物作業、もしくはホラー映画鑑賞……外に出れば、明るい世界が待っている。今日は天気が良く快晴だ。
闇から光のある場所へ。その瞬間はなんともすがすがしい。大袈裟だが、生きていると実感できる。しばらく歩いてその土地の空気を味わう。すれ違う人々の雑談とほがらかな笑い声が聞こえてくる。
ぼそぼそと耳障りな声が聞こえた――低い声で何か聞こえる……。
独り言を言いながら、黒い薄汚れたレインコートにアルミ製のアタッシュケースを持った奇妙な男が僕にふらふらと近づく……その不揃いな容姿に僕は興味を持ち、できるだけ観察する。年配の男……真っすぐ歩けないのかよたよたと足取りが危ない。小刻みに震える両手……真昼間から酔っているのか?明らかに尋常ではない様子だ。怪しい男……すれ違う瞬間、僕は横目でその男の表情をさらに深く観察する。うつろな両目にどす黒い肌の色……そこを流れる大粒の汗、酷いしゃがれ声で何かをつぶやいているがよく聞き取れない。僕はさらに近づいた……分厚い唇の奥から聞こえてきたのは支離滅裂な言葉の羅列だけ。
どうしよう
手遅れだ
終わりだ
死んだ?
全滅
知らない
興味ない
聞きたくないよ
一瞬、息をのむ僕はすぐにあれこれ想像してしまう。
もしや……人を殺めた者か?それともなんらかの事件の目撃者?はたまた、どこかで殺人を犯した者がこの地に逃亡して来て……それとも麻薬常習犯か?いいや、ただの酔っぱらいだろう……。
すぐに振り返るも、既にその男の姿はなかった……角をすぐに曲がったのか?影も形もない。それにしても異様に素早い。
確かにそこに存在したはずだ……幻覚などではないはず……自信が持てない自分……もし仮にそうであるとするならば、僕の創造物であったとするならば僕は――自分で思っているよりも精神が危険な領域に達しているのかもしれない。しかし、創造物ならばあの男はまた僕の前に必ず姿を現すだろう。その時はもっと不気味で異様な独り言をつぶやいているのかもしれない。
気がつくと僕は道路の脇でひとり、馬鹿みたいに突っ立っていた。
いずれにしても今日は……確かな収獲を得ることができたので早めに家に帰ることにした。
忘れないうちに、そして新しい物語を書き留めるために。
それにしてもなにか……言葉では表せないとてつもない悪い予感がする。こんな気分は初めてだ。
2022年10月1日 胸騒ぎの土曜日
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