2025年7月1日 配信
その日‥‥‥ニューヨークシティの北にあるマウス・ストリートという薄汚い路地でチンピラにからまれてしまったのだ。
この街では珍しくない日常茶飯事のただの強盗犯。金をよこせとほざき、ダガーナイフを出すとふらついている俺の喉元に突きつけやがった。
フェネンタルのおかげで体を蝕む痛みは消えていた。
しかし、困ったことに、奴に喰らいつきたいという欲求はなぜか酷くなっていたのだ。
隙をついてナイフをかわし、思わず腕に嚙みついてしまった。血、人肉の歯ごたえ!俺の歯形がくっきりと刻み込まれるほど深く噛みついてやった。
悲鳴を上げる奴を押し倒し、まるで腕から肉をそぎ落とすように夢中で食らった。俺の腕力は相手を圧倒していた。
この力は揺るぎない食欲からくる神より授かりし力‥‥‥おっと、俺みたいな罪人が神を語るなど冒涜か?
はっとし、我に返った時はすでに手遅れだった。ズタズタになりスペアリブのようになった右腕から大量に出血し、脈のないはずの奴が白目をむき、かすかな唸り声を上げながら、ふらふらと立ち上がったのだ。
しかも、傷の断面が変色し上部へと徐々に広がっていくのを見逃さなかった。
まるで、何かのウィルスのよう‥‥‥待てよ!お、俺が感染源なのか!?し‥‥‥しかし‥‥‥圧倒的な感染力!
くそ!くそ!あり得ない!悪夢なら覚めてくれ!
死にぞこないは一瞬、俺の顔をちらっと覗き込んだだけで、襲いかかってくるわけでもなく、路地を後にしてふらふらと大通りを目指して歩き出した。
奴を止めねば!街の人間に喰いつき、大変なことに!こいつに噛まれた奴がまた死人になって──ネズミ算式で増え続け‥‥‥俺は愕然とし奈落の底に突き落とされたような気分になった。
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